2024.08.20
DXでここまで変わる!売り上げアップと深い関係の「データドリブン」とは?
目次
メーカー、小売、飲食、と幅広い分野でDXを導入する動きがあります。
「DX」というと難しいと考えてしまうかもしれませんが、まず一部にデジタルを取り入れる、それだけで様々な角度からのアプローチで売り上げをアップさせる企業も相次いでいます。
また、デジタルとの関係を知っていくと、そもそも売り上げアップにはどんなことが必要なのかも見えてきます。
いくつかの事例をご紹介します。
高単価のリピーターを増やさなければならない理由
あらゆる産業において今、「リピート顧客を増やす」ことが重要な戦略になっています。
少子高齢化が進み人口が減っていくなか、ライバル企業と奪い合うパイの大きさはどんどん小さくなっていきます。新規顧客の獲得はおのずと難しくなっていくでしょう。
であれば、海外に販路を広げるか、リピーターを確保する必要性が高まることは想像に難くありません。
ある衣料品販売店の「瞬時の粋な取り計らい」
筆者がある通信販売の衣料品店から聞いた話です。
普段から顧客管理はシステム上で行っており、顧客リストのなかでも誰がこれまでにどのくらいの商品を買ってくれているか、といったことも完全に把握していました。
そこに2020年、コロナ禍が訪れました。
みなさんまだ記憶に新しいことかと思いますが、当初は買い占めなどの影響もあり、マスク不足が騒がれました。
海外の繊維業者との取引があるこの衣料品店は、すぐに取引先からマスクを仕入れ、さらにこれまで多くの買い物をしてくれたリピート客を絞り込みました。
そしてそれらの顧客を中心に、プレゼントとしてマスクを郵送したのです。
顧客からは大きな反響があったといいます。
マスクを受け取った顧客の側に立って考えれば、この衣料品店に感謝の気持ちを抱くことでしょう。いつも買い物をしているお店が、ある日突然無料でマスクを送ってくれたのです。ここで買い物をしていてよかった、と思ったのではないでしょうか。
こうした粋な取り計らいは、その企業の「ファン」を繋ぎ止めることにつながるはずです。
ひとえにこれは、DXの力です。
モノを販売する企業の場合、対面であれば「このお客さんは良く来てくれる人だなあ」という実感はあっても、必ずしもその人の名前や住所を知っているわけではありません。
これまでにいくらお金を使ってくれているかは、わからないことも多いものです。
しかしこの衣料品店は顧客情報をデジタルデータで管理しています。
氏名や住所だけでなく、ひとりひとりが何度買い物をしてくれて、これまでにいくらお金を使ってくれていたか、瞬時に上位顧客を抽出するシステムを導入していました。
紙で伝票整理をしている企業だと、顧客の抽出だけで膨大な時間がかかっていたことでしょう。追いつけないどころか、不可能な対応だったはずです。
「データドリブン」の威力
このようにデータをきちんと取り、それに基づいて戦略を判断する手法を「データドリブン」と呼びます。実はデータドリブンには、いろいろなメリットがあります。
大企業も「勝手な思い込み」で商機を逃していたことを発見
顧客データを管理することには大きなメリットがあります。
成功した事例として、大手旅行会社JTBの取り組みを見てみましょう。
顧客分析システムを本格導入した結果、会社が勝手に持っている「固定観念」を覆すような顧客の傾向がわかり、新しい商品の提供につながったのです。
JTBはかつて「出張するならJTB」という広告を出していました。しかしこれは男性目線の企画であり広告でした。出張するのは男性社員という暗黙の前提があったのです。偏見、とも言えるかもしれません。
しかしデータ分析の結果、実は女性のほうが宿泊場所を選ぶ際のこだわりが多く、その分、男性よりも単価が10%高いということがわかったのです。
NIKKEIリスキリング「旅立つ人の心、データで読み解く JTBのデジタル戦略」
https://reskill.nikkei.com/article/DGXMZO43340620U9A400C1000000/?page=2
そこで「出張女子」という広告企画を打ち出したところ、成約率が45%もアップしたといいます。
日経クロステック「「出張女子」狙いで成約率45%増、JTBが導き出した勝利の方程式」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/01874
データは客観的な事実を示してくれます。そのおかげで「思い込み」を排除できたという事例でもあります。
逆に言えば、「思い込み」「勝手なイメージ」で逃していた商機を見つけ、売り上げアップに繋げたということでもあります。
エクセルを「少し」勉強することで大躍進
また、商品の売れ行きをデータ化することで、商品を変えていないのに売り方を変えただけで飛躍的に売り上げを伸ばした企業として有名なのがワークマンです。
ワークマンはデータを使う企業になるまで、いわゆる「どんぶり勘定」の状態でした。
例えば在庫の数量データでは、期末と期首の販売額の差を在庫にするという簡易的なものだったのです。
確かにこれはシンプルな方法で、人手不足の時代に余計な作業を排除するという意味では良いかもしれませんが、デメリットもあります。
何がどれだけ、どんな理由で売れたのかを把握できないからです。逆に売り上げが落ちた時に理由がわからず、対処できなくなってしまうのです。
酒井大輔『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』(日経BP) (2020年) p61
そこで、エクセルの講習を開くことにしました。売り上げのアップダウンについて、データがあれば理由を特定できるからです。
日経クロストレンド「ワークマンが駆使する「自作エクセル」を初公開 データ経営の要」
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00599/00004
講習の結果、データに強くなった社員は、その知識をさらに伸ばすということを行います。
すると、そこから売り上げは右肩上がりになりはじめました。
ワークマンの純利益の推移
(出所:「2021年3月期決算説明会資料」株式会社ワークマン)
https://www.workman.co.jp/ir_info/pdf/2021/202105_kessan.pdf p30
上の図にある21年3月決算以降も、伸びを示し続けています。
株式会社ワークマン「財務データ」
https://www.workman.co.jp/ir%E6%83%85%E5%A0%B1/%E8%B2%A1%E5%8B%99%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF
モノを販売する企業にとって「在庫」は悩みの種でもあります。
無計画に仕入れをするよりも、売れ筋に沿って在庫を最小限に抑えるほうが、倉庫や輸送にかかる費用を削減できるというメリットもあります。
多くのものが値上がりを続ける中、不必要な経費をかけずに費用を抑えることは、重要な戦略になることでしょう。
じつは「良質ではない顧客」も存在する
そして、あまり良い言葉ではありませんが「良質でない顧客」が企業には一定の割合で存在します。
いま「カスタマーハラスメント」、顧客から不条理なクレームや注文を押し付けられて手間が増える、従業員を疲弊させる現象が問題になっています。
直接のクレーマーでなくても、例えば「大した額を取引していないのに、しょっちゅう電話をかけてきたり従業員を呼び出したりする」顧客などがそれにあたります。
「費用対効果」を大きく損ね、かつ従業員のモチベーションも落としてしまう可能性もあります。
もちろん、顧客に対してそう強く出られないという考え方も一理あります。
しかし「どの顧客が費用対効果を悪くしているのか」を把握することも大切です。
経営の軸となる重要なリピーターと、そうでない顧客に同じ対応をすることのデメリットにも目を向ける必要があるのです。
これも、どの取引先がどのくらいの利益になっているか、一方でどのくらい従業員に負担をかけているか、データがあれば、対応のしかたを考えるきっかけになります。
人手不足のなか、従業員を守るという意味でも必要なことです。
「お客様は神様」という考え方も最近では変わってきています。新しい価値観を取り入れる一助にもなるでしょう。
補助金の積極活用も検討しよう
ここまで事例を含めてデータの有用性を紹介してきました。
「デジタルには何か良いことがありそうだ」ということは、多くの人が感覚として持っているかもしれません。
しかし課題はその先にあります。
「何をしたらいいかわからない」ということです。
この疑問に対しては、2つの解消方法があります。
まず、企業の「KPI(=重要業績評価指標)」を明確にしてみることです。
KPIに対する意識は、実は日米で大きく分かれています。
評価や見直しの頻度の日米差
(出所:「DX白書2021」独立行政法人情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/files/000093699.pdf p7
黄色の円で囲まれた数字がアメリカで、「取り組んでいる」とする企業の割合、緑が日本です。
アメリカの企業がさまざまな指標を意識し見直しをしているのに対して、日本企業は数字に基づいた経営がほとんどできていないのが現状です。きつい言い方をすれば「無鉄砲」ということもできます。
先ほども述べた通り、今後、ライバルと奪い合うパイは小さくなっていきます。
「いいものを作っていれば売れるだろう」という考え方では難しくなっていくのです。
特に、スマートフォンを良く使う若い世代は「その場でバズっているもの」に興味を示すため、流行はコロコロと変わっていきます。
YouTubeやTikTokが流行を牽引する時代であることにも気をつけなければなりません。「勘」だけでは、世代間ギャップを乗り越えることは難しいでしょう。
消費者が「今欲しいもの」を提供することができるかは、勝敗を分ける大きな要因になります。
なお、東京都内の中小企業のDX推進と生産性の向上を支援する公的事業があります。
東京都「新規事業 都内中小企業のDX推進と生産性向上を支援します!令和6年度DX推進支援事業」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/05/08/09.html
DX推進のためのアドバイザーの派遣や、DXの推進・生産性向上のための助成金が出るというものです。
積極的に知ろうという姿勢があれば、一歩を踏み出せます。
難しく考えずに、まずは気軽な思いでこれら制度を利用してみてはいかがでしょうか。
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。