2024.08.06
【医師が解説】経営者にのしかかる重責とストレス どう解消し成果を出す?
目次
ストレスが私たちの日常生活や仕事に与える影響は計り知れません。
特に経営者やリーダーの立場にある方々にとって、責任とプレッシャーは避けて通れない課題となります。
医師や経営者には、いろいろな理由からストレスがかかりやすいという共通点があります。
そこで今回の記事では、筆者の医師としての経験を通じて、経営者の皆様が感じるストレスとその対策についてのヒントをお伝えしたいと思います。
1.ストレスの多様性と共通点
私は、今年(2024年)で15年目となる医師です。
大学の医学部を卒業してから、これまで様々な職場で働いてきました。
もちろん医師という仕事にはやりがいもあります。
しかし、仕事をしていく上では多種多様なストレスがあり、それぞれの時期での自分なりのストレスとの向き合い方を編み出してきました。
実は医師と経営者には、以下のような共通するストレスや考え方があります。
(1)責任とプレッシャー
医師には、患者の命を預かるという責任が常にプレッシャーとしてあります。
内科や外科などの診療科に関わらず、ミスが許されにくい環境ですので、独特の緊張感があります。
一方、経営者の皆様には、会社の成長や従業員の生活を背負うという責任があります。
経営判断が会社の存続に直結することもあり、重大なプレッシャーを感じる場面も多いでしょう。
(2)長時間労働とライフワークバランスの難しさ
言わずもがな、医師は長時間の診療や患者急変などへの対応、当直などによる過労が問題となることが多い職業です。
働き方改革などで労働環境が改善してきているとはいえ、まだまだ長時間労働を当たり前とする風潮が残っている職場もあると感じます。
経営者の皆様にも、長時間労働は当然という人も多いでしょう。
経営者や管理職となると、残業の概念がなくなる職場もあり、家族との時間の確保が難しいという点があります。
2.医師のキャリアとフェーズごとのストレス
ここまで、医師と経営者に共通するストレスについて少しご紹介しました。
ここからは、私の医師としてのキャリアとともに、フェーズごとのストレスについて少しご説明します。
(1)研修医時代(1-2年目)
研修医、つまり医師としての新人時代には、仕事に慣れることがまず大変でした。
勤務時間外の呼び出しに対しては、いつPHSがなるのかビクビクし、救急外来ではどのような方が運ばれてくるのか恐怖でした。
医師としては恥ずかしいことかもしれませんが、やはり最初は知識や経験も乏しく、かなりストレスがかかっていたと思います。
この時期は、上級医からの厳しい指導やミスに対する恐怖も大きなストレス要因でした。
(2)大学病院時代(3-4年目)
緊急の呼び出しはほぼなくなりましたので、そのストレスは軽減されました。
その一方で、毎晩遅くまで続く画像の読影や書類仕事が精神的にも肉体的にも大きな負担になります。
長時間労働や雑用の多さがストレスの原因だったのです。
なお、ロンドン大学の疫学・公衆衛生学教授である、Kivimäkiら(2015)による長時間労働が健康に与える影響についての研究では、心疾患や脳卒中のリスクが増加することが示されています。
Kivimäki, M., et al. (2015). Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603 838 individuals. The Lancet, 386(10005), 1739-1746.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26298822
筆者は幸い心疾患にも脳卒中にもなりませんでしたが、歯のケアを怠ってしまったことや食事がままならなくなったという不摂生がありました。
その結果、親知らずが虫歯になってしまい、とても大変な思いをしました。
(3)がんセンター時代(5-6年目)
がんセンター時代には、研修医時代や大学病院時代に比べるとかなり低ストレス状態となります。
優しい上司や頼もしい同期に恵まれかつ仕事内容も自分が専門としたいことのみができるようになったことも理由です。
しかし、お給料が低いことはプチストレスでした。
(4)再び大学病院に戻った(7-9年目)時
専門に戻れた安心感があったものの、子育てとの両立の難しさや給与の不満がありました。
また当時の大学病院は、市中病院と比べると医師がしなければならない仕事が多く、スタッフもイラついているようでなかなか人間関係が複雑であったことに悩みます。
それらも、ストレスの原因となりました。
(5)公衆衛生医師として新型コロナ対応に当たった(10-12年目)時
筆者はこのステージで第2子を産み、産休育休をとることになります。
そしてライフワークバランスを考え、公務員になることを選びます。
公衆衛生医師は、保健所や保健センターで、病原性大腸菌感染症や結核などの感染症対応を行うということがメインの仕事です。
最初の1年目は、仕事内容にもストレスになるようなプレッシャーは少なく、かつ休暇をとることも医療機関で働くことに比べると容易でした。
そのため、ストレスを感じることも少なかったのですが、ここで世界的なウイルスパンデミックが起きてしまいました。
公衆衛生医として、かつ係長級に昇格したことにより、医師としての感染症対応に加えて、職員の方々とどのように協力して対応していくのかということも仕事に加わります。
また、緊急事態になってしまい、2人の上司がたびたび方針の違いによって大喧嘩をする場面もありました。
部下としてその対応に当たることも求められ、容易なことではありません。
やりがいはありましたが、その過酷な状況がストレスの大きな要因となります。
3.経営者の皆様のストレス管理に役立つ方法とは
これらの経験から学んだ教訓は、ストレスマネジメントの技術や適切な休息の取り方、そして効果的なコミュニケーションの重要性です。
特にリーダーシップとコミュニケーションは、医療現場でも経営の場でも同様に重要だと思います。
実際に、感情知能、つまりコミュニケーション能力などが高いリーダーは、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができることが示唆されている報告もあります。
Harms, P. D., & Credé, M. (2010). Emotional intelligence and transformational and transactional leadership: A meta-analysis. Journal of Leadership & Organizational Studies, 17(1), 5-17.
https://psycnet.apa.org/record/2010-02929-001
(1)ストレスマネジメントの技術を学ぶ
まず、ストレスマネジメントの技術についてです。
ストレスを感じたときに、どのように自分の感情をコントロールし、適切に対処するかを学ぶことです。
アメリカのスタンフォード大学で心理学を研究しているGross (2002) の研究によると、感情調整の技術は、ストレス管理において非常に有効であるとされています。
自分が一番どういったことにストレスを感じるのかを理解し、それに対処するための具体的な方法を日常生活に取り入れることが重要です。
Gross, J. J. (2002). Emotion regulation: Affective, cognitive, and social consequences. Psychophysiology, 39(3), 281-291.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12212647
(2)休息を適切に取る
筆者の例として、呼び出しに怯える研修医時代には、適切な休息を取ることでストレスを軽減しました。
具体的には、友人や同僚との会話、趣味の時間を大切にすることで、精神的なバランスを保ちます。
大変なときこそ、楽しい・辛いなどの感情を誰かと共有し、休息をとることが大切です。
また、長時間労働が続いた大学病院時代には、時間管理とリフレッシュの方法を工夫しました。
スケジュール管理を徹底し、短時間でも質の高い休息を取ることを心掛けます。
夕食の時間がどうしても遅くなってしまうため、残業中に軽食をとり、満腹で寝ることがないよう工夫することも大事です。
また、日常的な運動や趣味に時間を割くことも、ストレス解消には効果的です。
空いた時間にはゴロゴロするのではなく、あえてスポーツジムで汗を流す、あるいは自宅でトレーニングをするなどすると良い場合もあります。
実際に、筆者のまわりの医師でも、トレーニングなどで身体を動かしているということをよく耳にします。
(3)効果的なコミュニケーションをとる
効果的なコミュニケーションも、ストレス管理において欠かせない要素です。
筆者は、管理職の立場であった時もそうでなかった時も、他の医療スタッフと良好な関係を築けるよう、積極的にコミュニケーションをとるよう心がけていました。
感情知能が高いリーダーは、部下との信頼関係を築き、ストレスの軽減に貢献することができるそうです。
リーダーは、部下の声に耳を傾け、フィードバックを適時に提供することで、職場の雰囲気を改善し、ストレスの原因を早期に発見することができます。
その結果として、チーム全体のパフォーマンスを向上させることが可能となるでしょう。
注意点として、中には関わることで自分を傷つけるだけの人もいるということです。
利害だけを考えるというのも問題ですが、関わり合いにならないことが最善という場合もあるので、留意しておきましょう。
(4)ストレスチェック制度とメンタルヘルスケアの専門家との連携
ストレスチェック制度の導入や、メンタルヘルスケアの専門家との連携も有効です。
精神医学を研究しているJoyce et al. (2016) の研究によれば、職場でのメンタルヘルス介入は、従業員のストレス軽減に効果的であることが示されています。
Joyce, S., et al. (2016). Workplace interventions for common mental disorders: a systematic meta-review. Psychological Medicine, 46(4), 683-697.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26620157/
実際に、筆者も公衆衛生医師の時代にストレスチェックを受けました。
その際、筆者は上司同士の仲が悪いため、部下である自分も対応に困っている、とカウンセラーに相談します。
すると、「勝手にやってるな!くらいに思っておけばいいですよ」というアドバイスをもらうことができ、楽になります。
自分の考え方だけでなく、他人、特に話を聞くプロフェッショナルであるカウンセラーの意見を聞くことはやはり大切だと実感しました。
部下を持つ経営者の方は、その立場上、自分自身のメンタルの状態を他人に観察してもらう機会も少ないかと思います。
そうした孤独になりやすい経営者の方が、カウンセラーなどの手を借りることはとても有効でしょう。
4.まとめ
ストレスは避けられないものですが、それに対処する方法は存在します。
前向きな姿勢と適切な対策を取ることで、ストレスを乗り越えることができると強調したいと思います。
経営者の皆様も、ストレスに対してぜひ前向きに取り組み、対策をしていきましょう。
自分自身の健康管理を大切にし、適切なストレスマネジメントを行うことで、長期的に見て企業の成長にも繋がるでしょう。
筆者の医師としての経験が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。
【筆者】
・名前 木村香菜(きむらかな)
・プロフィール:行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医、日本人間ドック学会認定医。