仕事のストレスを乗り越えるために:中小企業経営者と実務担当者へのアドバイス | 中小企業サイバーセキュリティフォローアップ事業

2024.07.23

仕事のストレスを乗り越えるために:中小企業経営者と実務担当者へのアドバイス

筆者は保健所で医師として勤務していた際、新型コロナウイルス感染症の流行を経験しています。
想像に難くないかとは思いますが、当時、かなりのストレスにさらされました。
当時は医師兼係長クラスの立場にあったため、他の職員の仕事をどのように割り振るかについても決めていく立場にあり、とても責任の重い仕事です。

未知の感染症が流行し始めた当初はとにかく手探りの状態で、まさにカオスです。
しかし、仕事への責任感や義務感もあり、自分自身で自分のストレスになかなか気づくことができませんでした。

そしてその経験から、気がついたことがあります。

「大企業に比べ、中小企業経営者や実務担当者のストレスは、あまりにも過小評価されているのではないか」

そこでこの記事では、筆者の経験も踏まえ経営者や管理者の方に向け、ストレスコントロールの考え方について医師の立場から助言をしたいと思います。
ぜひ、日々の経営はもちろん、ご自身のストレスとの向き合い方や、それらを乗り越えるための知恵としてお役立て下さい。

1.経営者のストレスと軽視されがちな問題点

中小企業は、日本の企業数の99.7%を占めており、全雇用者数の70%以上を支えています。
第5期科学技術基本計画に関する経済団体からの提言 日本商工会議所 p2
https://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui013/sanko3_2.pdf

にもかかわらず、これら企業の経営者が日々直面するストレスは、社会全体において十分に認識されていません。

経営者のストレスは、しばしば軽視されがちですが、実際には組織の運営において極めて重要な問題です。
特に中小企業では、大企業に比べてサポート人員が不足しているため、経営者の心理的負担が大きいでしょう。

さらに、経営者のメンタルヘルスに対する偏見もあり、悩みを持ちながらも支援を求めずに我慢する傾向があると指摘されています。

中小企業における経営者と管理職の行動特性,職場ストレッサーとメンタルヘルスとの関連-共分散構造分析による比較検討-.ストレス科学研究Advance Publication p2
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stresskagakukenkyu/advpub/0/advpub_2019002/_pdf/-char/ja

さらに、以下のような要因によって、経営者にストレスがかかる可能性があります。

(1)意思決定のプレッシャー

経営者は日々の運営だけでなく、会社の長期的な戦略を決定する役割を担っています。 このため、大きなプレッシャーの中で複雑な意思決定を迫られることが多く、ストレスが蓄積しやすいのです。

(2)責任の重さ

従業員やその家族、さらには会社に関わる利害関係者などの生活は経営者の判断に依存しています。
このため、経営者に重大な責任感がのしかかり、経営者にとって大きなストレス源となります。
繁忙期など、社員の心身にストレスが掛かるような場面ではなおさらでしょう。
そしてそのような時こそ経営者は、自分自身にも大きなストレスが掛かっていることを認識しなければなりません。

(3)孤独感がある

経営者は、その仕事の性質上、しばしば「孤独な立場」にあります。
群馬県の中小企業の経営者に対して行われた調査では、従業員との関係において「経営者は結局、孤独である」や、「従業員に自分の弱気な面は見せられない」といった回答がみられました。

平成19年度調査研究タイトル「中小事業所の経営者におけるメンタルヘルスの意識調査」群馬産業保健総合支援センター
https://www.gunmas.johas.go.jp/health/research2007/

彼らは従業員に対して強い姿を見せる必要があるため、自らの悩みやストレスを共有することが難しい場合があるのでしょう。
経営者のストレスを軽減するためには、個人が自己管理を行うだけでなく、組織としてもサポート体制を整えることが求められます。

例えば、専門のカウンセラーやコーチと定期的なセッションを設ける、または経営者専門のリトリートやワークショップを利用することで、経営者がストレスを効果的に管理できる環境を提供するとよいでしょう。

2.中小企業の経営者におけるストレスの影響

中小企業の経営者は、特有の環境とプレッシャーのため、ストレスが多岐にわたる影響を及ぼすことがあります。
以下に、主なストレスの影響について解説していきましょう。

(1)メンタルヘルスの不調

ストレスはうつ病や不安障害などの心理的な問題を引き起こすことがあります。
ストレスがかかる状態が長く続くと、活気が低下し、元気がなくなってしまいます。

また、イライラや不安感にも襲われるようになります。
集中力の低下や決断が困難になるといった、仕事に直接影響がでる恐れのある症状も現れるようになります。
最終的には、うつの状態に近づいてしまうこともあります。
筆者自身はコロナ対応の際、どちらかというと怒りっぽくなったり、いつも楽しめる趣味を楽しめなくなるということがありました。

メンタルヘルス対策として、カウンセラーの方との対話を経て多少は心が楽になったものです。
同様に、企業でリーダーの立場にある人こそ、多忙の際には積極的に専門家を頼ることを検討して下さい。

(2)ストレス関連疾患(心身症)

長期間の高ストレス状態は、メンタルヘルス面のみならず、体の不調をきたすことがあります。
ストレスに関連していると考えられている病気のことを、心身症(しんしんしょう)といいます。
この心身症には、気管支喘息や高血圧、冠動脈疾患、さらに糖尿病など、さまざまなものがあります。

こころの耳 厚生労働省 ストレス軽減ノウハウ 2 ストレスからくる病
https://kokoro.mhlw.go.jp/nowhow/nh002/

(3)組織への影響

経営者のストレスは直接的に従業員の士気や生産性に影響を与えることがあります。
また、経営者がストレスにより適切な判断ができない場合、組織全体の戦略的な誤りが生じたりするおそれもあります。
経営者の精神状態は会社の業績に大きな影響を及ぼす、という点も指摘されています。

中小企業経営者のメンタルヘルスの現状 p36
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfjg/33/0/33_28/_pdf

実際に、経営者や管理職の元気がないと、部下であるその他の職員たちもやる気が出しづらいということはあるでしょう。

これらの影響は、経営者が直面するストレスを理解し、適切に管理することの重要性を浮き彫りにしています。
ストレス管理の取り組みは、個人の健康だけでなく、組織の成功にも直結するため、経営者自身だけでなく、企業が積極的にサポートすることが望ましいですね。

3.ストレスの原因

ここまで、経営者の過度なストレスによる問題について解説してきました。
それでは、次に中小企業の経営者のストレス源について考えられるものをご紹介していきます。

(1)経済的プレッシャー

経営者は企業の財務状態を常に監視し、資金調達、予算管理、売上目標の達成など、経済的なプレッシャーに常に直面しています。
特に不況期や市場の変動が大きい時期には、この種のストレスはさらに高まるでしょう。


(2)高い責任感と意思決定のプレッシャー

経営者は企業全体の方向性と成功を左右する重要な意思決定を行う必要があります。
この大きな責任感と、日々の意思決定が及ぼす圧力は、経営者に著しいストレスを与えます。
失敗のリスクとその結果に直面することが、持続的な心理的負担となることが予想されます。


(3)職場の対人関係

経営者は従業員、顧客、投資家などとの関係を管理する必要があります。
これらの関係の中で生じる対人ストレスや、期待の管理、職員どうしの対立の解決などが経営者のストレスを増加させる要因となります。


4.個人レベルでのストレス対策

さて、ここからはストレス対策について紹介していきます。
個人的な戦略は以下のように多岐にわたります。

(1)質の良い睡眠をとる

良好な睡眠をとることで、ストレスフルな状況下におかれてもメンタルヘルス不調を予防できるとされています。
睡眠の質を高めるためには、定期的な運動、バランスの取れた食事などが大切です。

また、就寝前の食事や飲酒、喫煙、スマートフォンの使用は控えましょう。

良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと 厚生労働省
https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/leaf-sleep.pdf?1717511968130

とはいえ筆者自身も、忙しい時期にまとまった睡眠時間の確保などできません。

休日には早く就寝し、なるべく早めに起きるといった生活リズムを整えることで、できる限りの健康管理を意識して下さい。

(2)ストレス管理のスキル向上

マインドフルネスや瞑想など、ストレスを軽減するためのテクニックを学び、日常生活に取り入れることが効果的です。

なお、マインドフルネスとは、自分の経験に耳を傾け、今、この瞬間に起こっていることに集中することです。
こうした技術を習得することで、感情のコントロールが向上し、ストレスに対する対処能力が高まる効果が期待できます。

厚生労働省eJIM | 瞑想[各種施術・療法 – 医療者]
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c02/07.html

筆者自身も、寝る前のヨガなどで心身のリラックスをはかることで、コロナ禍の対応を乗り切ることができたと感じています。
大事なことは、ストレスをいったん心から切り離す時間を確保することです。

5.組織レベルでの対策

次に、組織としてのアプローチについて述べていきます。

(1)職場環境の改善

快適で健康的な職場環境を提供することで、従業員のストレスが軽減されます。
例えば、自然光の多いオフィスや適度なプライバシーが保たれた作業スペースの設計は、心理的な圧力を減らすのに有効です。

職場環境におけるウェルビーイング.サービソロジー.2019;5(4):10-15.p13
https://www.jstage.jst.go.jp/article/serviceology/5/4/5_10/_pdf/-char/ja


(2)メンタルヘルス支援プログラムの導入

定期的な健康診断、カウンセリングサービス、ストレス管理のワークショップの提供などによって、従業員のウェルビーイングをサポートしていきます。
これにより、職場全体の生産性向上にも寄与できるでしょう。
また、経営者が自身のストレスレベルを定期的にチェックするための自己評価ツールを導入することもお勧めします。

6.国の取り組みについて紹介

経済産業省は、中小企業の経営者の健康を支援するために、『健康経営優良法人認定制度』を推進しています。

健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html

この制度は、職場での健康管理を効果的に行う企業を公認し、メンタルヘルス対策の重要性を高めるものです。
具体的には、定期的な健康診断の促進やストレスチェックの実施、そしてそれに基づく改善策の提案などが行われています。

7.まとめ

中小企業の経営者や実務担当者は、個人としても組織としても、積極的にストレス管理を行うことが求められます。
ストレスは避けられない要素ですが、適切な対策を講じることで、その影響を大幅に軽減することが可能です。

とはいえ、どんな職種でも多忙な時期というものはあるでしょう。
そういった時に、ある程度のストレスがかかることは、避けられるものではありません。
大事なことは、自分の心身の状況が今どんな状態にあるかを客観視し、時に医師やカウンセラーの力を借りることを迷わないということです。

今回の記事が、中小企業の経営者や実務担当者が自らのストレスを効果的に管理し、健康な職場環境を維持するための一助となれば幸いです。
実際に役立つストレス管理のテクニックや、組織としてのサポート体制の整備について、さらに知りたい方は、専門のセミナーやワークショップへの参加を検討してみましょう。

【筆者】

・名前:木村香菜(きむらかな)

・プロフィール:行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

【経歴】

名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

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