2024.07.01
企業の安定と発展のために活用しよう! 中小企業が活用できるICT関連の補助金・助成金には何がある?
※本記事に関する動画が完成しました。ぜひご覧ください。
目次
昨年、友人が起業しました。
10数年間の会社勤めを経て、人脈もでき、顧客の目途もついてからの独立で、勤務していた企業ともパートナーシップ契約を結んでいます。
幸い事業は順調ですが、それでもサラリーマン時代とは違う心配があるようです。
一番の不安は、毎月滞りなく社員に給与を支払い、外注費を確保できるか、ということ 。
たとえ多くの注文をいただいたとしても、その売上金がすぐに入ってくるわけではありませんし、場合によってはあてにしていた収入が予定通りに入ってこない可能性もあります。
彼の場合は起業後間もなくということもあり、極端な例だとは思いますが、中小企業の経営者は多かれ少なかれ、そのようなストレスを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
そのような状況で、必要な事業活動に安心して取り組むための助けとなるのが、国や東京都の補助金制度や助成金制度の活用です。
現在活用できる制度にはどのようなものがあるのでしょうか。
本記事では、補助金・助成金制度の活用に役立つ情報を提供します。
1.ICTの活用と補助金・助成金制度の活用
友人は現在、事業のさまざまな課題を解決するために、ICT(情報通信技術)関連の助成金制度の活用を検討しています。
それはなぜでしょうか。
ICTの活用は、ビジネスの成長と競争力を加速させるからです。
出所)公益財団法人 日本電信電話ユーザ協会「ICTで小規模ビジネスにイノベーションを! コスト削減から効率化まで、中小企業の課題解決」
https://www.jtua.or.jp/feature/ict/
出所)総務省「平成28年版情報通信白書 第1部」p.7
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/n1100000.pdf
ICTを導入すれば、業務の効率化やコスト削減、顧客サービスの向上が図れます。
業務の効率化は企業活動の生産性を高めるため、人手不足の解消にもなりますし、労働力に余裕ができれば、社員をより生産性の高い業務に集中させることもできます。
たとえば、後ほどご紹介する「IT導入補助金」の活用事例として、「働き方改革をめざして、タイムカードと給与管理システムを連動させた勤怠管理ツールを導入した」「補助金を活用し、これまで紙で管理していた業務日記等をITツールで管理することにした」などが挙げられています。
出所)経産省 ミラサポplus「IT補助金とは」
https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/ithojo/
その成果は、業務の効率化と正確性の向上 。
導入した勤怠管理ツールを活用して社内規定を見直したところ、社員のモチベーションが高まるという副次的な効果もあったそうです。
また、「勘に頼った経営を改めるために、補助金を活用して販売管理システムを導入したところ、得意先の需要予測や仕入れ単価の推移が明確に把握できるようになり、売上が増加した」という導入例も挙げられています。
このように、ICTの活用は、単なるツールの導入に留まらず、事業を活性化することにつながります。
では、そうした取り組みに活用できる制度にはどのようなものがあるのでしょうか。
2.補助金・助成金制度とは
ここでは、補助金・助成金とはそもそもどのような制度なのか、注意点もあわせてみていきましょう。
特徴
まず、特徴を押さえましょう。
補助金と助成金は、どちらも国や地方公共団体から支給されるお金です。
出所)J-Net21「補助金・助成金の違いや補助金活用における注意点について教えてください。」
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/financial/Q1339.html
民間の団体が支給する場合もありますが、多くの財源は公的な資金から出されるものなので、誰でももらえるわけではありません。
普通は申請や審査が必要で、一定の資格が求められる場合もあります。
また、補助金も助成金も、受けようと思うと事務処理が増えたり、時間的な制約がついたりして、手間暇がかかることがありますので、あらかじめそのことを理解しておく必要があります。
私の友人も、繁忙期に助成金制度を活用しようとしたことがあったのですが、そのための手続きに使える余力がなく、時期をずらして申請することを考えています。
補助金・助成金の留意点
次に、補助金・助成金の留意点をみていきましょう。
1)提出書類でのアピール
1か月程度の公募期間を設けるのが一般的で、この期間内に所定の書類を揃えて申請する必要があります。
申請する場合には、こうした事務作業を通常業務と並行して短期集中的に進めることになりますので、定期的に募集があるような補助金・助成金であれば、あらかじめ計画を立てて業務の調整をしておけば安心でしょう。
多くの場合、採択件数より応募件数が上回ります。たとえば採択予定件数10社に対して申請が30社あれば、20社は審査で落ちてしまうことになります。
したがって、採択してもらうためには、提出書類でその妥当性や必要性をアピールすることが大切です。補助金の申請に関しては、提出書類の内容が大変、重要だということを押さえておきましょう。
2)後払い制
多くの場合は後払い制で、すぐにお金を受け取ることができるわけではありません。
したがって、まずは申請した事業総額と同額の資金を用意する必要があります。
たとえば総額300万円の事業で1/3の補助がある場合でも、すぐに助成金の100万円が受け取れるわけではなく、自社のお金で一旦300万円を支出する必要があります。
先に出るものと勘違いして、200万円だけ用意して残りの100万円を用意しなければ事業を進めることはできず、かえって大変な状況に陥ってしまいますから、注意が必要です。
3)支出する時期
事業期間を定めるのが一般的で、この事業期間に支出した経費以外は経費として認められず、補助を受けられないこともあります。
たとえば、事業期間が8月1日〜2月28日までだとしたら、7月31日に支出したものも3月1日に支出したものも補助を受けられない可能性が高いのです。
事業期間内に申請した事業活動がおさまるように、留意しましょう。
また、事業期間は年度末ではなく少し早めに設定されているケースが多いので、注意が必要です。
4)助成金の額の決め方
助成金の金額は、下の図1のように決められます。
一見煩雑のように見受けられますが、順を追って計算していけば、受け取れる金額が把握でき、申請を検討する際の参考になります。
図1 助成金の金額の決め方
出所)東京都中小企業振興公社「助成金を申し込む前に必ずお読み下さい!!」p.1
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/qp64520000001995-att/Precautions_Joseikin-Chuiten.pdf
計算式は、図1の下にあります。
例えば、助成の対象事業を行うためにかかった経費が税込み1,100万円で、そのうち助成の対象にならない経費が100万円、助成率が2分の1、助成限度額が300万円の場合、以下のように計算します。
① 経費1100万円から助成対象外経費の100万円(消費税)を引く ⇒ 1,000万円
② ①に助成率の2分の1をかける ⇒ 500万円
③ ②が助成限度額300万円を超えるため、助成金額は限度額の300万円になる
こうしてあらかじめ概算しておけば、申請するかどうかを検討する際の有益な判断材料になるでしょう。
5)助成金が支払われるまでの基本的な流れ
助成金の申請から支払いまでの流れは、下の図2のとおりです。
図2 申請から助成金支払いまでの流れ
出所)東京都中小企業振興公社「助成金を申し込む前に必ずお読み下さい!!」p.1
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/qp64520000001995-att/Precautions_Joseikin-Chuiten.pdf
6)申請の際の確認事項
申請の際には、以下について確認しましょう。
① 申し込む事業の内容が助成金の目的と合っているか
② 助成対象期間に、事業の発注・契約・実施(購入)・支払い(決済)のすべてを行うことが可能か(図3)
図3 助成対象期間に行うべきこと
出所)東京都中小企業振興公社「助成金を申し込む前に必ずお読み下さい!!」p.2
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/qp64520000001995-att/Precautions_Joseikin-Chuiten.pdf
③ 募集要項の「審査の視点」(審査基準)と合っているか
④ 必要最小限の経費になっているか
詳しいことは、各助成金の募集要項に記載された連絡先に問い合わせ、慎重に検討しましょう。
7)事務処理
事業期間終了後、一定期間内に報告書や支払証憑類を提出する必要があります。
この提出書類がいい加減だったり、目的外に経費を支出したりしていた場合などは、支払いが拒否されることがあります。
どの経費に対する支出なら認められるのかきちんと確認し、的確な事務処理をしましょう。
8)会計検査院の検査が入る可能性
国からの補助金を受けた企業は、会計検査院の検査を受ける可能性があります。
その際、不備を指摘されないように、正当な目的のためにだけに費用を支出することが必要です。
3.IT導入補助金
ここでは、中小企業が活用できるICT関係の補助金をご紹介します。
経済産業省は「中小企業向け補助金・総合支援サイト ミラサポplus」を開設しています。
このウェブサイトでは、中小企業が活用できる補助金に関するさまざまな情報が得られます。
中小企業向け補助金・総合支援サイト ミラサポplus
そのなかに、ITサービスを活用したい事業者向けの「IT導入補助金」があります。
目的・対象ツール・パートナーシップ
この補助金は、日々の業務の効率化や自動化のためのITツールの導入をサポートします。
活用事例とその成果は先ほどご紹介したとおりです。
出所)経産省 ミラサポplus「人気の補助金>IT導入補助金」
https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/
ソフトウェアやサービスなど対象となるITツールは事前に事務局の審査を受け、補助金のホームページに公開されているものです。
出所)IT導入補助金2024「IT導入補助金とは」
https://it-shien.smrj.go.jp/about/相談対応などのサポート費用やクラウドサービス利用料なども補助対象となります。
補助金を申請する中小企業・小規模事業者は、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入事業者」とパートナーシップを組んで申請することが必要です。
申請・手続きのフロー
下の図4は、申請と手続きのフローです。
図4 IT導入補助金の申請・手続きフロー
出所)IT導入補助金2024「新規申請・手続きフロー(中小企業・小規模事業者等のみなさまの手続き)」
https://it-shien.smrj.go.jp/applicant/flow/
「IT導入補助金2024」の交付規程・公募要領
「IT導入補助金2024」には、通常枠、インボイス対応類型、電子取引類型、セキュリティ対策推進枠、複数社連携IT導入枠という種類があります。
それぞれの交付規程、公募要領、交付申請の手引きは、以下からダウンロードできます。
IT導入補助金2024「資料ダウンロード」
4.東京都の助成金
公益財団法人東京都中小企業振興公社はウェブサイト「助成金事業」で、東京都の「助成金一覧」、「目的別助成金」、「令和6年度助成金事業」など助成金に関するさまざまな情報を提供しています。
東京都中小企業振興公社「助成金事業」
たとえば、目的別助成金の「サービス」や「生産性向上」には、ICT関係の助成金が複数、掲載されています。
図5 東京都の目的別助成金
公益財団法人東京都中小企業振興公社「目的別」p.1
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/h7v93t0000004ieh-att/r6_mokutekibetsu_1.pdf
それぞれの問い合わせ先も載っていますので、気になる助成金があったら、問い合わせてみてはいかがでしょうか。
経営全般に関する相談や、どこに相談したらいいかわからない場合には、「ワンストップ相談窓口」で相談することもできます。
ワンストップ相談窓口
また、同サイトの「採択企業一覧」には、各助成金ごとに、昨年度までの採択企業名が記載されています。助成の種類によっては、企業名だけでなく、所在地や申請テーマも公表されており、申請を検討する際のヒントが得られるかもしれません。
東京都の助成金 採択企業一覧
たとえば以下は、「令和5年度 TOKYO戦略的イノベーション促進事業 採択企業一覧」のリンクです。
令和5年度 TOKYO戦略的イノベーション促進事業 採択企業一覧
5.おわりに
企業変革をもたらすICTの導入・活用は、中小企業にとって急務といっていいでしょう。
中小企業向け助成金・補助金は、それを支えるための有益な制度です。
事業の成長と安定のために活用を検討してみてはいかがでしょうか。
筆者プロフィール
<横内美保子>
博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
X:よこうちみほこ
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