助成金についても解説! 従業員の睡眠を守るための努力義務「勤務間インターバル」制度とは? | 中小企業サイバーセキュリティフォローアップ事業

2024.10.29

助成金についても解説! 従業員の睡眠を守るための努力義務「勤務間インターバル」制度とは? 


どうも体調がすぐれない。

集中力が続かない。

昼間でも眠気が抜けない。

それは、もしかしたら睡眠不足かもしれません。

睡眠不足は、健康リスクにつながるだけでなく、仕事上のミスや事故を招きやすいことがわかっています。

ところが日本では、特に労働世代といわれる20〜59歳代の睡眠不足が深刻です。

さらに問題なのは、労働時間が長いほど睡眠時間が短いこと。

そうした問題のソリューションの1つが、「勤務間インターバル制度」、企業の努力義務です。
この制度の背景と概要、助成金について解説します。

働く人の睡眠時間

日本人は睡眠不足だという報道に接した方も多いのではないでしょうか。

経済協力開発機構(OECD)が33ヵ国を対象に行った調査では、日本の1日の睡眠時間(睡眠に充てる時間)は7時間22分で、全体平均より1時間以上短く、対象国の中でもっとも短いことが報告されています。

出所)厚生労働省「解説書 知っているようで知らない睡眠のこと」p.4
http://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/guide-sleep.pdf?1684281600049

国内の調査結果もみてみましょう。

「令和元年国民健康・栄養調査」の結果によると、労働世代といわれる20〜59歳では、睡眠時間が6時間未満の人が約35〜50%を占めています。その中で、睡眠時間が5時間未満の人も約5〜12%います(図1)。

図1 日本人の年代別睡眠時間の割合

出所)厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf

睡眠不足のリスクと適正睡眠時間

睡眠不足にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

また、適正睡眠時間はどのくらいでしょうか。

健康上のリスク

睡眠時間が短いと、さまざまな健康リスクが高まることがわかっています。

最近の複数の研究では、睡眠時間が極端に短いと、肥満や高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管疾患、認知症、うつ病などの発症リスクが高まることが示されています。

世界中で⾏われた研究を系統的に収集し、92万人分のデータを解析した結果によっても、睡眠時間が6時間未満になると、死亡リスクが有意に上昇することがわかっています。
出所)厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf

人為的ミス・事故の発生リスク

健康面のリスクだけではありません。睡眠不足は、人為的なミスや事故の発生リスクも高めます。

短時間睡眠や不眠が続いたとき、日中に強い眠気に襲われたり、作業能率・注意力が低下していると感じたり、なんとなく気が塞いだりしたことはないでしょうか。

そうした症状が人為的ミスの危険性を高めます。

アラスカでのタンカー事故、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発、スリーマイル島での原発事故などは、従事者の睡眠不足が原因の一端となった大きな事故として知られています。


日本でも、過酷な勤務条件で睡眠が十分にとれなかった長距離ドライバーの居眠り運転が問題になりました。


睡眠問題による経済・社会資本の損失は、日本・アメリカともに年間数兆円に上ると試算されています。

出所)厚生労働省 e-ヘルスネット「健やかな眠りの意義」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-001.html

適正睡眠時間

では、適正な睡眠時間とは、どのくらいなのでしょうか。

これまで明らかになった科学的知見によると、成人にとっては、おおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間と考えられています。

それを根拠に、2024年6月に厚生労働省が10年振りに改定・公表した「健康づくりのための睡眠ガイド」では、1日の睡眠時間は少なくとも6時間以上確保できるように努めることが推奨されています。

ただし、適正な睡眠時間は個人差や日中の活動量の差によっても変化します。

主要な研究者の意見をまとめて作成されたアメリカの共同声明では、成人では7〜9時間の睡眠時間を核として、それより短めの6時間以上、あるいは長めの10時間も許容されています。

出所)厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」p.2, p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf

「勤務間インターバル制度」とは

「勤務間インターバル制度」とはどのような制度なのでしょうか。

労働時間と睡眠時間との関係

働く人が適正な睡眠時間を確保するためには、労働時間に留意することが大切です。

勤務時間が長くなるほど、睡眠時間は短くなる傾向があるからです。

労働時間と睡眠時間の関係について調査した研究があります。

その研究では、1日当たりの労働時間が7時間以上9時間未満の人を基準とした場合、睡眠時間が6時間未満になるリスクは、労働時間が9時間以上の人は、男性は2.76倍、女性は2.71倍、労働時間が11時間以上の人は、男性は8.62倍、女性は5.59倍と、著しく増加することが報告されています。

さらに、時間外労働が1日当たり5時間を超えると、睡眠時間は極端に短くなるという報告もあります。

図2 労働時間と睡眠時間の関係

出所)厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」p.13
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf


こうした問題のソリューションの1つが、「勤務間インターバル制度」です。

「勤務間インターバル制度」のしくみ

この制度は、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることによって、働く人の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです。

図3 勤務間インターバル設定の例

出所)厚生労働省 東京労働局「勤務間インターバル制度をご活用ください」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/interval01.html

導入企業の割合

「勤務間インターバル制度」の導入は2019年4月1日から事業主の努力義務となりました。

出所)厚生労働省 働き方・休み方改善ポータルサイト「勤務間インターバル制度とは」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/

しかし、導入ずみの企業は非常に少ないのが現状です。

厚生労働省が2023年に調査したところ、導入ずみの企業は全体のわずか6%で、企業規模が小さいほど、導入率が低くなっています。



表1 勤務間インターバル制度の導入状況

出所)厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」p.10 
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaikyou.pdf

「勤務間インターバル制度」導入をサポートする助成金

「勤務間インターバル制度」を導入する際には、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用することが可能です。

支給対象となる企業

支給対象となる事業主は、次のいずれにも該当する中小企業事業主です。

1.労働者災害補償保険の適用事業主であること

2.次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること

  ア 勤務間インターバルを導入していない事業場

  イ 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下であること

  ウ 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場

3.全ての対象事業場において、交付申請時点及び支給申請時点で、36協定が締結・届出されていること

4.全ての対象事業場において、原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること

5.全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。


出所)東京助成金・補助金サポートセンター「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバルコース)」
https://tokyo-joseikin.info/subsidy/subsidy002/

支給対象となる取り組み

以下のどれかの取り組みを1つ以上実施する場合、その取り組みが支給対象となります。

  1. 労務管理担当者に対する研修
  2. 労働者に対する研修、周知・啓発
  3. 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
  4. 就業規則・労使協定等の作成・変更
  5. 人材確保に向けた取り組み
  6. 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  7. 労務管理用機器の導入・更新
  8. デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
  9. 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

 *研修には、勤務間インターバル制度に関するもの、および業務研修も含みます。

 *原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

出所)厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html

支給額

対象経費の合計額に補助率3/4を乗じた額が支給されます。

ただし、常時使用する労働者数が30人以下で、かつ支給対象の取り組みのうち6から9を実施し、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5です。

また、次の表の上限額を超える場合は、上限額が支給されます。

表2 「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の支給上限額

出所)厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html

申請・相談窓口

申請書類の提出は、所在地を管轄する労働局雇用環境・均等部です。

交付申請書や申請マニュアルは以下で入手することができます。

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」

事業所が東京都にある場合には、以下で助成金について無料相談ができます。

東京助成金・補助金サポートセンター「無料相談の流れ」

おわりに

十分な睡眠時間を確保することは、従業員の健康維持・増進に欠かせません。

また、従業員が健やかに働くことができれば、企業にとってもさまざまなメリットが得られるはずです。

助成金の活用も視野に入れ、「勤務間インターバル制度」の導入を検討なさってみてはいかがでしょうか。



筆者プロフィール

<横内美保子>

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。

高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育

成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。

パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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