黒字なのに廃業はもったいない! 事業承継の有益な手法「中小M&A」と助成金について解説 | 中小企業サイバーセキュリティフォローアップ事業

2025.01.28

黒字なのに廃業はもったいない! 事業承継の有益な手法「中小M&A」と助成金について解説

事業承継の有益な手法「中小M&A」と助成金について解説


大切な会社と従業員、熱い思いや技術を次の世代に引き継ぐ―事業承継は経営者にとって重い責任です。

ところが、現在、半数以上の中小企業で後継者が不在となっています。

また、2023年に経営者年齢は過去最高を更新し、今後も事業承継の必要性が高まることが窺えます。

後継者がいなければ、たとえ黒字経営であったとしても、廃業を視野に入れざるを得ません。実際に、休廃業・解散を選択した企業の半数以上が、直前の決算は黒字です。

そうした状況を回避し事業承継を実現するための有益な手法の1つが、「中小M&A」です。

中小M&Aをめぐる状況をわかりやすく解説し、東京都の助成金、支援策をご紹介します。

事業承継をめぐる状況

まず、中小企業の経営者の年齢と事業承継はどのような状況にあるのでしょうか。

中小企業経営者の年齢

2023年時点の経営者年齢は平均60.5歳で、過去最高を更新しました。さらに70代以上の経営者の割合も継続して増加しています。

中小企業の経営者年齢の分布
 図1 中小企業の経営者年齢の分布

出所)中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(2024年6月)p.10
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shokei_ma/001/005.pdf


後継者不在の状況

次に中小企業の後継者をめぐる状況をみてみましょう。

後継者不在率は2018年以降、減少傾向にあるものの、2023年時点でも54.5%と、半数を超えています。

中小企業の後継者不在率
 図2 中小企業の後継者不在率

出所)中小企業庁「2024年版中小企業白書 第3章 中小企業・小規模企業の現状」p.109
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap3_web.pdf


休廃業・解散の件数と廃業理由

後継者不在の問題は、中小企業の廃業にも影響を与えています。休廃業・解散件数は増加傾向にあり、厳しい状況が続いていますが、廃業理由の約3割が後継者不在なのです。

中小企業の休廃業・解散件数と廃業理由
 図3 中小企業の休廃業・解散件数と廃業理由

出所)中小企業庁「事業承継を知る」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/know_business_succession.html

しかも、2023年に休廃業・解散を選択した企業の52.4%が直前の決算は黒字であり、価値ある事業が喪失している状況があります。

出所)東京商工会議所「中小企業の円滑な事業承継の実現に向けた意見概要」(2024年7月)p.1
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1203520


事業承継後の経営状況

では、事業承継をした企業の承継後の業績はどうでしょうか。

M&Aを実施した中小企業は、M&Aを実施していない企業と比べて、売上高、経常利益、労働生産性を向上させています。

事業承継実施企業の承継後の利益
 図4 事業承継実施企業の承継後の利益

出所)中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(2024年6月)p.22
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shokei_ma/001/005.pdf

事業承継に向けた「中小M&A」

次に、中小企業の事業承継に有益な手法「中小M&A」についてみていきましょう。

第三者承継を可能にするM&A

M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称です。日本では会社法の定める組織再編(合併や会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含む事業の引継ぎを指します。

「中小M&A」とは、後継者不在の中小企業の事業を、M&Aの手法によって、社外の第三者である後継者が引き継ぐことです。

出所)中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第2版)―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―」(2023年9月) p.14
https://www.meti.go.jp/press/2023/09/20230922004/20230922004-b.pdf

事業承継には価値ある企業の存続を可能にするという社会的意義があります。

ところが、2022年から2023年の利益状況をみると、「後継者を決めていないが、事業は継続したい」という企業の54.8%、「自分の代で廃業予定」の企業の25.5%が黒字経営で、このままではこうした価値ある企業の存続が断たれる可能性があります。

出所)東京商工会議所「事業承継に関する実態アンケート報告書」(2024年2月)p.27
https://tokyo-cci.meclib.jp/jigyoshoukei_survey2024/book/#target/page_no=29

このような状況を背景に、第三者承継の有益な手法である「中小M&A」に注目が集まっているのです。

実施件数

国内の中小M&Aの実施件数は増加しており、2022年度の実施件数は、事業承継・引継ぎ支援センターを通じたものが1,681件、民間M&A支援機関を通じたものが4,036件でした。

中小M&Aの実施件数
 図5 中小M&Aの実施件数

出所)中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(2024年6月)p.12
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shokei_ma/001/005.pdf

なお、「事業承継・引継ぎ支援センター」とは、国が設置する公的相談窓口で、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応しています。東京都にも同センターの窓口がありますので、後でご紹介します。 

出所)事業承継・引継ぎ支援センター ウェブサイト・トップページ
https://shoukei.smrj.go.jp


M&Aに対するよくある誤解

事業承継はしたいけれどM&Aには抵抗があるという方もいらっしゃるでしょう。

ここで、M&Aに対するよくある誤解をQ&A方式でみていきましょう。

Q1:敵対的な行為なのでは?

A:あくまで当事者間の話し合いによって、友好的に進められます。

Q2:従業員はリストラされ、顧客基盤や技術だけを奪われるのでは?

A:従業員の雇用は多くの場合、M&A実施後にも維持されているという調査結果があります。人手不足のため、譲受企業が人材を求めている場合もあります。「従業員の雇用継続」など条件を明確にして譲渡先を探すことが重要です。

Q3:大企業が対象で、小さな会社は関係ないのでは?

A:東京商工会議所の調査によると、被買収企業(譲渡側)でもっとも割合が高いのは従業員10人以下の企業で48.2%、11~20人規模が27.6%で、100人以下の企業が全体の96.4%に上ります。

Q4:赤字企業・債務超過企業は対象にならないのでは?

A:企業のもつ人材や技術、ノウハウ、設備、顧客網などを求める企業がみつかるケースもあります。たとえば、譲受企業との相乗効果で収益改善や成長が見込まれ、買収の対象となった事例があります。

Q5:安く買いたたかれるのでは?

A:M&Aの価格は交渉によって決まります。希望額に満たない場合には無理に売却・譲渡する必要はありません。専門家、支援機関などの協力を得れば、適正価格で交渉を進められる可能性が高まります。

Q6:M&Aの経験がない小さな会社には対応が難しいのでは?

A:一般的にM&Aによる承継は誰でも初めての経験です。支援者のサポートを積極的に活用しましょう。

出所)東京商工会議所「後継者が決まっていない小さな会社のためのM&Aガイド」(2023年3月)p.6-7
https://tokyo-cci.meclib.jp/manda_guide/book/#target/page_no=6

出所)経済産業省 中小企業庁「中小M&Aの意義」(2021年3月)p.5
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shigenshuyaku/2021/210315shigenshuyaku01_1.pdf
出所)東京商工会議所「事業承継に関する実態アンケート報告書」(2024年2月)p.31
https://tokyo-cci.meclib.jp/jigyoshoukei_survey2024/book/#target/page_no=33

東京都の支援策と助成金

ここでは、中小M&Aに取り組む企業への東京都の支援策と助成金をご紹介します。

東京都事業承継・引継ぎ支援センター

東京都事業承継・引継ぎ支援センターは、東京商工会議所が経済産業省から委託を受けて、中小企業のM&Aを無料でサポートしています。

事業承継問題の悩みを抱える中小企業経営者からの相談、特に「第三者への会社(事業)の譲渡」についての相談を受け、ケースによっては実際のM&Aの実行支援を行います。

企業にとって最善の事業承継の方策を、利害関係のない第三者の専門家が経験に基づいてアドバイスします。選択肢は提示しますが、自己のビジネス分野への誘導をしたり、決断を急かしたり、強く促したりするようなことはありません。秘密厳守で、安心して相談することができます。

出所)東京都事業承継・引継ぎ支援センター ウェブサイト
https://www.jigyo-hikitsugi.jp/about_us/purpose/
https://www.jigyo-hikitsugi.jp/about_us/characteristic/

東京商工会議所「ビジネスサポートデスク」

東京商工会議所「ビジネスサポートデスク」は、次の世代に向けた業績改善、事業承継計画の作成など、専門家が無料で継続的に課題解決を支援します。

たとえば、事業承継支援の経験豊富な専門家(中小企業診断士、税理士、公認会計士)がヒアリングを行い、事業承継に向けて課題や対策案をまとめた「診断書」を無料で作成・提供し、対策をサポートしています。

出所)東京商工会議所「ビジネスサポートデスク」
https://www.tokyo-cci.or.jp/soudan/bsd/
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/

事業承継支援助成金

東京の「事業承継支援助成金」は、都内の中小企業を対象として、事業承継を実施する過程で外部専門家などに委託して行う取り組みに対し、200万円を上限として、その経費の一部を助成するものです。 

公益財団法人東京都中小企業振興公社「令和6年度 第2回事業承継支援助成金」
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/shoukei.html

国の支援策

国は現在、中小M&Aを推進しており、次の図6のように、さまざまな支援策を講じています。

中小M&Aの支援策一覧
 図6 中小M&Aの支援策一覧

出所)中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(2024年6月)p.4
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shokei_ma/001/005.pdf

おわりに

これまでみてきたように、「中小M&A」は適切な事業承継を実現することによって従業員や設備などの経営資源の維持につながるだけでなく、企業の経営状態を向上させ、企業価値を高めます。

支援策も視野に入れ、時間的余裕をもってじっくり検討してみてはいかがでしょうか。


筆者プロフィール 

<横内美保子>

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。

高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。

パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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